旧豊前国では春と秋を中心に地域の神社で神楽が奉納される。始原は明確ではないが、江戸時代の初めには記録に現れてくる。「豊前岩戸神楽33番」と形容されるように多様な演目が伝承されているが、中でも「駈仙(御先)」という鬼が登場する演目は豊前神楽を象徴する演目である。鬼は力の象徴であり、その鬼を鎮めることで五穀豊穣、家内安全、国家安寧を祈願したといわれる。「湯立神楽」は、高さ10余mの柱に鬼が登るという全国的にもあまり例をみない大掛かりなもので、豊前修験道の祭礼「松会」の影響が認められることから、修験者が神楽の成立に深くかかわっていたことを物語る。さらに「剣神楽」「盆神楽」などアクロバティックな演目も人気で、最後は豊前神楽で最も大切な演目である「岩戸開き」で奉納を終える。