千光寺は、筑後在国司草野永平が建久3年(1192)に創建。総高1.1mを測るこの寺の鐘楼にかかる和鐘は、鐘身は四区に袈裟襷で区分され、乳は4段4列4ケ所に鋳出され、池の間には刻銘がほどこされている。縦帯と中帯の交叉するところに撞座があり、径10cmの八葉蓮華文が表わされている。龍頭の彫りは、目を見張る出来栄えである。鐘身のなかに走る袈裟襷文の力強さと、全体が簡素であることは鎌倉時代の作風を残しているといえよう。南朝方・北朝方の勢力がせめぎ合う北部九州において、この梵鐘は永和3年(1377)の北朝年号が刻銘されており、南朝の征西将軍宮・懐良親王に関係の深いこの寺に、北朝の年号が刻まれた鐘があることは、当時の複雑な世相を窺い知ることのできる貴重な資料である。