彦山修験の一翼を担う小規模霊山として栄えた蔵持山に伝存する懸仏。径37.5cmの鋳銅製鏡板の中央に総高23cmの鋳銅十一面観音坐像をかけ、坐像は唐草透彫りの光背を持つ。鏡板背面には「宝治元年四月日草部国宗」の蹴彫籠字の銘があり檀那や工人名と考えられる。御正体となる観音像は頭頂仏から膝部まで一鋳するものの両手は別鋳されて肩でほぞ組され、吊環座は魚子地に花を線刻した花先形の座板で、菊形の座金二枚、一二面体の切子環台に吊輪をつける。この時期の懸仏は県内でも英彦山神宮蔵の「彦山権現御正体」(建久年間)のほか事例がなく、北部九州の修験文化の遺宝として貴重なものである。